
悔しい経験を乗り越えてきたからこそ
今の自分があると思います
今が一番楽しいです
高校2年生のときから、デフバドミントンの日本代表として活躍し続ける矢ケ部紋可(やかべ あやか)選手。妹の真衣さんとペアを組んで臨んだ第24回夏季デフリンピック競技大会では、女子ダブルスで4位に。2024年の第10回アジア太平洋ろう者競技大会では、女子ダブルスと混合団体戦両方で優勝。東京2025デフリンピックに向けた意気込みと、これまでの歩みを伺いました。
2025年11月12日公開

「楽しい」だけから、「強くなりたい」と思うように
バドミントンを始めたのは小学校1年生のとき、通っていたろう学校でチームができたのがきっかけです。地域のクラブにも入りますが、ろう学校のチームとは違い、チームメイトはもちろんコーチとも手話によるコミュニケーションがうまく取れず、最初はストレスを感じることもありました。ただしばらくすると母の支えなどもあり関係性がよくなり、3歳下の妹も一緒にいたので、楽しくなりました。
小学校6年生のときに別のクラブを見学すると、自分と同じ学年なのにとても強い選手がいました。自分もその選手のようになりたいと思い、クラブを移ります。中学生も参加しているクラブでしたがチーム分けは上手いか下手か。下のレベルのチームに分けられるのが嫌なこともあり、これまで以上にバドミントンに力を入れて取り組むようになりました。

初めての国際大会で全敗した悔しさを糧に成長
走り込みやフットワーク、ノックなどの基礎練習を繰り返していくうちに、段々と結果が出るようになり、中学時代には福岡県大会への出場を果たします。それまでは健聴者の大会のみの出場でしたが、高校生になるとデフバドミントンの大会にも参加するようになり、高校2年生のときに日本代表に選ばれ、マレーシアで行われたアジア大会に参加しました。
ただ、結果は全敗。しかも、代表メンバーの中でメダルが取れなかったのは私だけで、再び悔しさを感じて、以前にも増して練習に取り組むようになりました。すると努力の甲斐あってか、2022 年にブラジルで開催されたデフリンピックでは、女子ダブルスで4位に入ることができました。

密なコミュニケーションや豊かなジェスチャーに注目してもらいたい
バドミントンの魅力は、なんといってもシャトルを打った時、特にスマッシュをした時の「音」です。ラリーのスピード感も注目ですし、ダブルスの場合はよりスピードが速いので、ぜひ見てもらいたいですね。
ただ、選手としてデフの試合でプレーしているときは補聴器を外しているので、音は聞こえません。音はプレーの判断材料でもあるので、デフの試合では前後の流れやシャトルの軌道などを参考に、自分の中で想像力を働かせ、プレーしています。健聴者の試合でも同じく、想像力や勘を頼りに勝負に出る場合もありますが、デフの試合の方がより際立っています。また、目を使うこともデフの試合の方がより目立つと思います。
日常生活から言えることですが、デフの選手は表情や手話を使ったコミュニケーションが豊かです。その影響でしょうか、日本選手はそこまでではありませんが、海外の選手、特に東南アジアの選手はチームメイトと手話も交えて激しく喧嘩をしたり、怒りをあらわにしながらラケットをコートに叩きつける(もちろん警告を受けます(笑))ような選手もいたりしますので、そちらも注目してもらえればと思います。

シャトルが床につくまで諦めない粘りのスタイルが強み
私の強みは、シャトルが床につくまで諦めない粘りのレシーブです。そのためダブルスの際には前衛を担当することが大半で、私が拾いまくって、相手に隙が生まれた瞬間にパワーのある妹がスマッシュを決める。このようなプレースタイルで試合に臨むことが多いです。
デフリンピックも含め、シングルスの大会も出場していますが、ダブルスの方が好きです。ペアとの信頼関係が勝ち負けに影響したり、落ち込んだときにアドバイスをもらえるからです。
ペアが妹ということで、より本音で話し合えていると思います。試合中に揉めたり意見が対立することもありますが、そのようなときは無理に話し合うようなことはせず、家に帰ってからも変わらず、会話は一切なし。でも次の日になったらきれいさっぱり、お互いに忘れる。幼いころからの喧嘩の仲直り方法ですが、姉妹ならではの強みかもしれませんね。

スポーツは何歳からでも始められる 今が一番楽しいです
前回のデフリンピックでは新型コロナウイルス感染症の影響で、途中棄権の4位という結果となり、悔しい思いをしたので、東京大会ではダブルスで金を、シングルスではこれまでの最高位であるベスト8を目指します。
もうひとつ、今回の大会を通じてデフバドミントンに興味を持つ人や、実際に取り組む人も増えればと思っています。スポーツはいつから始めても楽しいですし、体を動かすことでストレス発散にもなります。
このような思いもあり、初心者から代表クラスの選手まで、さまざまな人がデフバドミントンを楽しめる場づくりにも取り組んでいます。週に2度ほど、いつも練習している体育館に集まってもらうような声掛けをしていて、参加者も徐々に増えています。
バドミントンは様々なプレースタイルがあり、自分の特徴や年齢によって楽しむことができます。私自身も、高校生のころは力任せでプレーをしていましたが、今はフォームも含め、頭を使ったプレースタイルに変えています。もっと強くなりたいとの思いからの取り組みですが、結果として18年間もバトミントンを続けることにもつながりましたし、何より今が一番楽しいです。
撮影日:2025年8月23日(土)
撮影地:神奈川県藤沢市 アサンテ スポーツパーク
撮影者:仙波 理








